「いただきます」はどうして言うの?

公開:2026-07-25 更新:2026-07-25 読了 約6分

図解

1 「頂」の意味 山のいちばん高いところを指す語 2 動作を表す 物を頭の上にささげ持つ動きを「頂く」と言った 3 敬意の表明へ 高く掲げる姿勢が相手を上位に置く敬意になる 4 「もらう」の意へ 捧げ持って受け取る動作から「もらう」を表す 5 「食べる」の意へ 飲食をへりくだって表す言い方に広がる 6 中世以降の用例 『日本国語大辞典』に食事用語の用例が示される

図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)

もともと物を頭の上にささげ持つ動作を表すことばだったからです。

ごはんのまえに「いただきます」。毎日まいにちっているけれど、どうしてこううのでしょう。じつはこのことばのもとは、「いただく」といううごきのことばです。「いただき」はやまのいちばんうえのこと。つまり「いただく」とは、もともとものあたまうえにささげつ、という意味いみだったとされています。

むかしは、大切たいせつものをもらうとき、あたまよりたかくかかげてけとったといわれます。そのうごきが「もらう」という意味いみになり、さらに「べる」ことをへりくだってうことばへわっていった、というせつがあります。ただし、いつごろから食事しょくじのあいさつになったのかは、はっきりわかっていません。

では、いまのわたしたちはなに感謝かんしゃしているのでしょう。農林水産省のうりんすいさんしょうは、「いただきます」は本来ほんらい料理りょうり食材しょくざいとなった自然しぜんのめぐみへの感謝かんしゃあらわすものだと説明せつめいしています。こめ野菜やさいさかなも、もとはきていたいのちです。

みじかい5文字もじのあいさつに、あたまうえにささげるむかしうごきと、いのちへのおれい気持きもちがかさなっています。今日きょうのごはんは、どこから、だれのをとおってきたのでしょうね。

食事の前後で唱える二つの言葉は、感謝の向きが異なっている。農林水産省の解説を踏まえると、食前の一言は食材となった自然の恵みへ向けられ、食後の言葉は育てた人・獲った人・調理した人という人の連なりへ向けられる。自然と人を言い分ける構造が、日本語の食卓表現には残っているわけだ。

一方、由来の話に踏み込むと様相が変わる。国立国会図書館のレファレンス協同データベースには語源辞典を多数突き合わせた調査回答が収録されているが、たどり着く結論は「成立時期を詳述した資料は見当たらない」というものだった。国立国語研究所も、語源説は文化伝承の領域に属するものであり、辞書が説の優劣を裁定することはほとんどないと述べている。由来を語るときに出典と留保をセットで示す姿勢は、この分野では作法に近い。

仕組みの科学

「いただきます」を分解すると、動詞「頂く」の連用形に丁寧の助動詞が付いた形になる。鍵は「頂く」の原義で、「頂」は山頂のように最も高い部分を指す語であり、そこから「物を頭の上に載せる・目より高く捧げ持つ」という身体動作を表したと説明される。国立国会図書館のレファレンス協同データベースに収録された回答は、複数の語源辞典を参照しながら、身分の高い人から物をもらうときに頭の上に捧げ持つ動作をしたところから、もらうこと、さらには飲食することをへりくだって表現する言い方になったという説を紹介している。

ここで働いているのは、具体的な身体動作を表す語が、その動作に伴う社会的な意味へと移っていく変化である。「頭より高く掲げる」という姿勢は、相手を自分より上位に置く敬意の表明であり、動作そのものが敬語表現の土台になった。同じ構図は「賜る」「奉る」など他の敬語動詞にも見られる。敬語は抽象的な規則として最初から存在したのではなく、体の動きが繰り返され、意味が固定していく過程で形になっていったと考えられている。食事の前の一言が、動作の記憶を今も運んでいる。

歴史と発見

「いただきます」がいつから食事の挨拶として定着したのかは、実は簡単には言えない。国立国会図書館のレファレンス協同データベースに収録された回答では、『決まり文句語源辞典』『日本語源広辞典』『暮らしのことば新語源辞典』『日本国語大辞典』第二版など複数の辞典が調査され、『日本国語大辞典』には食事用語としての用例が「中世以降」として示され、虎寛本狂言・猿座頭(室町末〜近世初)が挙げられている。一方で同じ回答は、いつの時代から使用されていたかについて詳しく書かれた資料は見つけることができなかったと明記している。

この「わからない」という結論は、語源研究の性格そのものを映している。国立国語研究所のことば研究館は、語源や由来の説について、それらが科学の対象になり得るとは限らないという論理上の限界があり、現代の辞書では新たな語源説を展開したり従来の説の真偽や優劣を論じたりすることはほとんどないと説明する。そして語源論を、言語そのものの科学的な解明を目的とする学問というより、言語にまつわる文化伝承の世界だと位置づけている。もっともらしい語源説が広まりやすい分野だからこそ、出典と留保をセットで扱う必要がある。

もう一歩先

語源とは別に、この挨拶が現代でどんな意味を担っているかという問いがある。農林水産省は「いただきます」を、本来、料理の食材となった自然の恵みへの感謝を表すものだと説明している。あわせて「ごちそうさま」については、料理を作ってくれた人だけでなく、お米や野菜を作ってくれた人、魚を獲る人、食事が並ぶまでに関わったあらゆる人への感謝の気持ちが含まれていると述べている。つまり食前と食後の二つの言葉で、自然と人という異なる方向への感謝が言い分けられている。

注意したいのは、こうした意味づけを唯一の正解として押しつけないことだ。宗教的な背景を挙げる説明もあるが、解釈は立場によって異なり、特定の教義に還元して語れるものではない。国立国語研究所が語源を文化伝承の世界と位置づけたのと同様、意味づけもまた文化の中で育ってきた層のひとつと捉えるのが穏当だろう。

実践として面白いのは、食卓で「今日の一皿は誰の手を通ってきたか」を辿ってみることだ。作った人、運んだ人、育てた人、獲った人——農林水産省の説明にある連なりを具体的に思い浮かべると、五文字の挨拶が急に立体的になる。ことばの由来を調べる楽しみと、目の前の食事を見る目を新しくする楽しみは、案外つながっている。

🌱 ためしてみよう!3択クイズ

本文をよんでこたえてみよう。タップでせいかいがでるよ。

Q1. 「いただく」はもともとどんな動きを表していたとされる?
こたえ:物を頭の上にささげ持つ動き
「頂」は山のいちばん高いところを指すことばです。語源辞典では、「頂く」はもともと物を頭の上にささげ持つ動作を表し、そこから「もらう」、さらに「食べる」をへりくだって言う言い方になったという説が紹介されています。
Q2. 「いただきます」が食事のあいさつになった時期は?
こたえ:はっきりわかっていない
国立国会図書館のレファレンス協同データベースの回答では、『日本国語大辞典』に中世以降の用例が示される一方、いつの時代から使われていたかを詳しく書いた資料は見つけられなかったと明記されています。わからないことは、わからないと言うのが誠実です。
Q3. 農林水産省は「いただきます」を何への感謝と説明している?
こたえ:料理の食材となった自然のめぐみ
農林水産省は、「いただきます」は本来、料理の食材となった自然の恵みへの感謝を表すものだと説明しています。食後の「ごちそうさま」には、食事が並ぶまでに関わったあらゆる人への感謝が含まれるとされています。

👤 大人のちょっとした雑学

語源は「わからない」が正解に近い

レファレンス協同データベースの回答は語源辞典7点を調査したうえで、いつの時代から食事の挨拶として使われたかを詳しく書いた資料は見つけられなかったと明記する。断定的な起源説を見かけたら、出典を確かめる価値がある。

国語研は語源を「文化伝承の世界」と位置づける

国立国語研究所は、語源説は科学の対象になり得るとは限らないという論理上の限界があり、現代の辞書が説の真偽や優劣を論じることはほとんどないとする。そして語源論を言語にまつわる文化伝承の世界だと説明している。

食前と食後で感謝の向きが違う

農林水産省の説明では、「いただきます」は食材となった自然の恵みへの感謝、「ごちそうさま」は作った人・育てた人・獲った人など食事が並ぶまでに関わったあらゆる人への感謝。二つの言葉で方向が使い分けられている。

🔬 とことん深掘り:読書ガイド

読み順ガイド(やさしい→専門)

  1. 日本語の敬語(入門書)
    「頂く」がなぜ謙譲表現になるのか、敬語体系の中での位置を押さえられる。個別の語源話に入る前の地図になる。
  2. 語源辞典の読み方(日本語語彙史の入門)
    語源説がどう作られ、どこまで検証できるのかを理解できる。国立国語研究所の留保の意味が具体的に掴める。
  3. 日本国語大辞典(第二版・辞典)
    用例と出典で語の歴史を追う一次的な作業を体験できる。「中世以降」という記述の重みが実感できる。
  4. 食文化史(日本の食と儀礼)
    食前の挨拶を儀礼・共食の文化史の中で捉え直せる。語源と意味づけを切り分けて考える訓練になる。

さらに進む方向

  • レファレンス協同データベースで他の挨拶語(ごちそうさま・おはよう)の調査事例を読み比べる
  • 国立国語研究所ことば研究館のQ&Aで、語源説の扱い方に関する記事をまとめて読む
  • 農林水産省の食育関連資料で、食への感謝がどう教育に落とし込まれているかを確認する
  • 『日本国語大辞典』で「頂く」の用例を年代順に追い、意味の広がり方を自分で確かめる

もっと詳しく:図解

  1. 「頂」の意味
    山のいちばん高いところを指す語
  2. 動作を表す
    物を頭の上にささげ持つ動きを「頂く」と言った
  3. 敬意の表明へ
    高く掲げる姿勢が相手を上位に置く敬意になる
  4. 「もらう」の意へ
    捧げ持って受け取る動作から「もらう」を表す
  5. 「食べる」の意へ
    飲食をへりくだって表す言い方に広がる
  6. 中世以降の用例
    『日本国語大辞典』に食事用語の用例が示される
  7. 現代の意味づけ
    自然の恵みや関わった人への感謝として語られる

ことばのメモ

頂く
物を頭の上にささげ持つこと
山などのいちばん高いところ
語源
ことばのもとの形や意味
諸説
いくつもの考え方があること
食育
食べることについて学ぶこと

よくある質問

「いただきます」の語源は何ですか?
「頂く」が本来「物を頭に載せる」動作を指し、そこから「もらう」「食べる」をへりくだって表す言い方になったという説が語源辞典で紹介されています。
いつから食事のあいさつになったのですか?
はっきりしていません。レファレンス協同データベースの回答も、いつの時代からかを詳しく書いた資料は見つけられなかったと明記しています。
何に対して感謝しているのですか?
農林水産省は「いただきます」を、本来、料理の食材となった自然の恵みへの感謝を表すものだと説明しています。解釈は立場により幅があります。
「ごちそうさま」との違いは何ですか?
農林水産省の説明では、ごちそうさまには料理を作った人だけでなく食事が並ぶまでに関わったあらゆる人への感謝が含まれるとされています。

学びのタネ

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家でできること

  • 今日の食事に使われている食材を1つ選び、それが食卓に並ぶまでに関わった人を家族と数えてみよう。
  • 国立国会図書館のレファレンス協同データベースで「いただきます 語源」を検索し、参照された辞典名を確かめてみよう。

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出典・参考文献

  1. 国立国会図書館レファレンス協同データベース「『いただきます』の語源について、いつ頃から使われたのか知りたい。」 参照 2026-07-25
  2. 国立国語研究所ことば研究館「語源や由来の説」 参照 2026-07-25
  3. 農林水産省おうちで和食「『いただきます』『ごちそうさま』に込められた本当の想い」 参照 2026-07-25

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