一番古い言葉は何?

公開:2026-07-17 更新:2026-07-17 読了 約6分

図解

1 約20〜30万年前 ホモサピエンスがアフリカに出現 2 約20万年前 音声言語の使用が徐々に始まったとされる 3 約5万年前 ホモサピエンスが世界各地へ拡散 4 約5000年前 楔形文字・象形文字が誕生 5 奈良時代 日本の『古事記』『万葉集』が編まれる 6 戦国時代 『天草版伊曽保物語』に当時の口語日本語が記録

図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)

音声言語は約20万年前から少しずつ生まれたとされるから。

『おはよう』『ありがとう』など、わたしたちは毎日たくさんの言葉ことばを使いますね。では、世界でいちばん古い言葉はどんなものだったのでしょう?

じつは、これにはぴったりとした答えがありません。音声おんせいでつたえる言葉は、文字で記録きろくされていないので、はっきりと『これが最初の言葉』と言える証拠しょうこがのこっていないからです。

東京大学とうきょうだいがく博物館はくぶつかん解説かいせつでは、わたしたちのご先祖せんぞのホモサピエンスがアフリカで生まれたころから、少しずつ音声でやりとりするちからが育っていったと考えられています。

文字として記録されている言葉なら、古代こだいメソポタミアの楔形くさびがた文字や、エジプトの象形しょうけい文字が約5000年前のものとして知られています。

日本語の場合は、奈良時代に書かれた『古事記』や『万葉集まんようしゅう』が、いま残る古い記録のひとつです。言葉はながい時間をかけて少しずつ生まれて、すこしずつ形をかえてきたのですね。だから今みんなで使っている『おはよう』も、はるかむかしから少しずつ受けつがれてきた、たくさんの人の声のおくりものなのです。

『一番古い言葉は何か』という問いには、簡単に答えが出ない。音声でしか伝わらない言葉は化石になって残らないため、人類最古の言葉そのものを特定することはできない。東京大学総合研究博物館の解説では、ホモサピエンスがアフリカで現れて以降、徐々に音声言語が発達したと整理されている。

文字として記録された言葉なら別だ。古代メソポタミアの楔形文字、エジプトの象形文字は約5000年前の出土文字として知られ、世界四大文明の発祥地はおおむね同時期に文字を持ち始めた。

日本語の場合、文字記録は中国から伝わった漢字を借りて始まり、奈良時代の『古事記』『万葉集』が現存最古級の体系的な書き言葉と位置づけられている。国立国語研究所によれば、1000年頃と1500年頃の日本語の差は、1500年頃と現代日本語の差より大きい。言葉は時代とともに大きく姿を変えてきたのである。

仕組みの科学

言葉とは、音声や文字を介して意味を伝達するための記号体系である。人間の言語が他の動物のコミュニケーションと異なるのは、有限な要素(音素・単語)から無限に新しい文を組み合わせられる『生成性』という性質を持つ点だ。これにより、目の前にない出来事や未来のことを語れるようになる。東京大学総合研究博物館の解説では、ホモサピエンスがおよそ20〜30万年前にアフリカで現れたことに触れつつ、声道の形態進化や発声の精密化を背景に、長い時間をかけて音声言語が成立したと考えられている、と紹介されている。

音声言語は化石として残らないため、起源の特定は容易ではない。考古学的な手がかりとしては、複雑な道具製作、壁画、装飾品、儀礼用品など『象徴的な行動』の登場が指標とされる。これらが出現する数万年前のアフリカ・ヨーロッパでは、すでに高度な言語が機能していた可能性が高いと議論されている。生物進化と文化進化の双方が支え合って成立したのが、私たちが今使う言葉なのである。

歴史と発見

文字として刻まれた最古の言葉なら、はるかに具体的にたどれる。古代メソポタミアの楔形文字は約5000年前に成立し、商取引・徴税・神話・法典に使われた。古代エジプトの神聖文字(ヒエログリフ)もほぼ同時期に始まり、ピラミッドの碑文や墓室の壁に多数残されている。これらは粘土板や石碑として現存し、当時の言葉そのものを今に伝える貴重な記録だ。

日本語は中国から伝わった漢字を借りて文字化が始まった。古墳時代後期の鉄剣銘文には、すでに日本人名を漢字で記した古い例が知られる。奈良時代になると『古事記』や『万葉集』など、まとまった分量の和文・和歌が書き残された。万葉集には『万葉仮名』という、漢字を音と訓で借用する手法が用いられた。国立国会図書館の解説では、日本語の語源や初出を調べるための辞書・データベースが紹介されており、日本語の歴史を体系的にたどる土台が整っている。子どもの素朴な『これっていつからある言葉?』という問いが、文献調査や語史研究の入口にもなり、ことばの旅は今日も続いている。

もう一歩先

言葉の研究は、現代では計算言語学・進化人類学・古代DNA研究が交差する刺激的な分野になっている。世界の現存言語を比較分析することで、語族の系統や祖語の姿が再構成され、言語の歴史と人類の移動史が結びつけられている。東京大学などの自然人類学研究では、声道の進化や認知発達と言語能力の関わりも探究されている。

日本語に関しては、国立国語研究所が『日本語歴史コーパス』を整備し、平安時代から現代までの言葉の変化をデータベース化している。同所の説明では、平安時代の『源氏物語』のような古典と、戦国時代の『天草版伊曽保物語』の口語日本語、そして現代語との間にはそれぞれ大きな隔たりがあるとされる。古代の話し言葉そのものは復元しきれないが、文字記録・方言・近隣諸語との比較を組み合わせ、その輪郭は少しずつ明らかになってきている。子どもが普段使う『おはよう』も、もしかしたら数百年後にはまた違う形で受け継がれていくのかもしれない。

🌱 ためしてみよう!3択クイズ

本文をよんでこたえてみよう。タップでせいかいがでるよ。

Q1. 人間がことばを話し始めたのはどのくらい前のことでしょう?
こたえ:約20万年前
現代人(ホモ・サピエンス)は約20万年前にアフリカに現れ、そのころから少しずつことばが生まれたと考えられています。もっと古い人類も声を出しましたが、今の私たちのような複雑なことばが使えるようになったのは、のどや脳がこの時期に発達したからです。
Q2. 文字に書き残された一番古いことばは、どこの国の言語でしょう?
こたえ:シュメール語
今から約5000年前、現在のイラクにあたるメソポタミアに住んでいたシュメール人が、粘土板に楔形文字を刻みました。これが現在知られている中でもっとも古い書き記された言語です。最初は物の数を数えるための記録として使われていました。
Q3. 人間だけが複雑なことばを使えるのはなぜでしょう?
こたえ:脳が大きくて舌・のどの形も言葉に向いているから
人間は脳の言語を担う部分(ブローカ野など)が発達しているだけでなく、のどの奥が深く舌を細かく動かせる構造をしています。この脳とのど・口の両方が組み合わさることで、チンパンジーなど他の動物にはできない複雑な発音や文法を使えるようになりました。

👤 大人のちょっとした雑学

「ゴシップ」が言語を生んだ?

人類学者ロビン・ダンバーは、言語の起源を「毛づくろいの代替」と説く。霊長類は仲間との絆を毛づくろいで保つが、集団が大きくなると物理的に不可能になる。そこで人類は「声による社会的毛づくろい」=世間話・噂話として言語を発達させたという仮説だ。

シュメール語は現代語と「無縁」

記録上最古の言語シュメール語(紀元前3200年頃)は、現在知られているどの言語とも系統的なつながりが確認されていない「孤立言語」だ。アッカド語に取って代わられ紀元前2000年頃には日常使用が消滅したが、宗教・学術用途では紀元後まで書き続けられた。

FoxP2遺伝子は「言語遺伝子」ではない

2001年に発見されたFOXP2遺伝子は「言語遺伝子」と呼ばれたが、現在ではその呼称は誤りとされる。ネアンデルタール人も同じ変異を持ち、鳥の歌や運動学習にも関与する汎用遺伝子だ。言語は単一の遺伝子ではなく、数百の遺伝子と脳の回路の総体で実現されている。

🔬 とことん深掘り:読書ガイド

読み順ガイド(やさしい→専門)

  1. 言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか(今井むつみ・秋田喜美、中公新書、2023)
    オノマトペとアブダクション推論を軸に、子どもの言語習得から言語進化まで平易に解説。新書大賞2024受賞。言語起源論への最初の一歩として最適。
  2. ことばの起源――猿の毛づくろい、人のゴシップ(ロビン・ダンバー、青土社、新装版2024)
    「社会的毛づくろい仮説」を提唱した古典的名著。進化生物学・人類学の視点で言語を捉え直す。読本として読みやすく、次の専門書への橋渡しになる。
  3. 言語の起源――人類の最も偉大な発明(ダニエル・L・エヴェレット、白揚社、2020)
    言語学・人類学・脳科学・考古学を横断した大著。ピダハン研究で著名な著者がチョムスキー流普遍文法に挑む。言語起源論の現在地を把握できる。
  4. 言語の人類史――言葉の進化の謎を解く(スティーヴン・ミズン、河出書房新社、2026)
    考古学者が遺物・化石の証拠をもとに言語誕生を論じた最新の大著。認知考古学の視点から「いつ・どのように言語が生まれたか」を物的証拠から迫る。
  5. 言語起源論(ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー、講談社学術文庫、2018)
    1772年にベルリン・アカデミー懸賞を受けた古典。「言語は神の賜物」でも「動物の模倣」でもなく人間精神の産物だと論じた近代言語起源論の原点を読む。

さらに進む方向

  • 認知言語学・語用論に進むなら:Tomasello『コミュニケーションの起源を探る』やLevinson『語用論』へ
  • 進化生物学・遺伝学の側面を深めるなら:FOXP2研究の原著論文(Enard et al. 2002, Nature)や行動遺伝学の入門書へ
  • 比較認知科学(類人猿との比較)に進むなら:松沢哲郎『想像するちから』やde Waal『共感の時代へ』へ
  • 歴史言語学・言語変化の研究に進むなら:加藤重広『言語学の教室』やCampbell『歴史言語学』(原著)へ
  • 書き言葉の起源・文字体系史に進むなら:フロスト『文字の謎・封印・解読』やSampson『世界の文字体系』へ

もっと詳しく:歴史と時系列

  1. 約20〜30万年前
    ホモサピエンスがアフリカに出現
  2. 約20万年前
    音声言語の使用が徐々に始まったとされる
  3. 約5万年前
    ホモサピエンスが世界各地へ拡散
  4. 約5000年前
    楔形文字・象形文字が誕生
  5. 奈良時代
    日本の『古事記』『万葉集』が編まれる
  6. 戦国時代
    『天草版伊曽保物語』に当時の口語日本語が記録
  7. 現代
    世界で多数の言語が話されデジタル化も進む

ことばのメモ

楔形文字
古代メソポタミアの粘土板の文字
象形文字
物の形をかたどった古代の文字
万葉仮名
漢字を音と訓で借りた書き方
語族
同じ先祖の言葉のグループ
ホモサピエンス
わたしたち現生人類のこと

よくある質問

世界で一番話す人が多い言葉は何ですか?
母語話者の数では中国語(標準中国語)が最多とされ、英語・スペイン語・ヒンディー語が続きます。総話者数では英語が世界最大の共通語です。
日本語と韓国語は仲間の言葉ですか?
文法構造はよく似ていますが、語族として同じグループかは諸説あります。日本語の系統については、はっきりとは決まっていません。
文字をもたない言葉は今もありますか?
あります。世界の言語のうち、文字で記される言葉は一部で、残りは音声でのみ伝承される話し言葉として今も使われています。
古い日本語を今の人は読めますか?
平安時代の『源氏物語』や奈良時代の『万葉集』は、専門教育を受けないと意味を取りにくく、現代の翻訳や注釈に頼って読むのが一般的です。

学びのタネ

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家でできること

  • 図書館で『古事記』『万葉集』の現代語訳を借りて、千年以上前の言葉を読んでみよう。
  • 国立国語研究所『ことば研究館』のサイトで、言葉の歴史についてのコラムを読んでみよう。
  • 自分が知っている外国語と日本語で、同じ意味の単語を並べて似ているところと違うところを比べてみよう。

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出典・参考文献

  1. 東京大学総合研究博物館言語の起源は? 参照 2026-06-19
  2. 国立国語研究所 ことば研究館現代の高校生が戦国時代にタイムスリップしたら、言葉は通じますか 参照 2026-06-19
  3. 国立国会図書館 リサーチ・ナビ日本語の初出・語源、ものごとの始まりを調べる 参照 2026-06-19

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