リスはどうして木の実をあちこちに埋めるの?

公開:2026-07-25 更新:2026-07-25 読了 約6分

図解

1 秋 集める オニグルミなど木の実をあちこちで探して集める 2 その場で食べる 集めた実の約42%はその場で消費する 3 秋 分散して隠す 残り約58%を地面と樹上に1個ずつ分けて貯食 4 冬 掘り出す 食べ物の減る冬に、記憶と嗅覚で貯食場所を再発見 5 他種による盗難 貯食の一部(約12%)はアカネズミなどが持ち去る 6 春 忘れた実が芽を出す 残された約7%の種子が発芽して若木になる

図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)

冬に食べものが少なくなるから、あちこちに分けて隠しておく貯金だから。

あき公園こうえんで、リスがドングリやクルミをくちにくわえて、いそいでかけていくのをたことはありませんか。すぐにべるのかと思ったら、つちのなかにうめたり、のあいだにおしこんだりしています。じつはこれ、あとでべるための「貯金ちょきん」なのです。

森林総合研究所しんりんそうごうけんきゅうじょ観察かんさつによると、ニホンリスはあきあつめたオニグルミのおよそ4割よんわりをその場ですぐべ、のこりのおよそ6割ろくわり地面じめんのうえにけてかくすそうです。ふゆになってがおち、べものがっても、こまらないようにする大切たいせつ知恵ちえです。

ただし、リスはかくした場所ばしょぜんぶはおぼえていません。わすれられたクルミのたねのなかには、はるになってし、おおきなそだつものもあります。研究けんきゅうでは、あきにリスがはこんだクルミのうち、はるまで地面じめんにのこったのはおよそ7ななパーセントほどだったそうです。

つまりリスは、自分じぶんのごはんを用意よういしながら、らないうちにもりのあたらしいえていることになります。わすれっぽさがもりおおきくしているだなんて、なんだかふしぎでやさしい物語ものがたりですね。

森林総合研究所の観察研究によれば、ニホンリスは冬眠せず樹上で活動を続ける動物で、秋にオニグルミなどの木の実を「散在貯蔵(スキャッターホーディング)」と呼ばれる方法で分散して隠す。観察された事例では、運ばれた156個のクルミのうち約42%をその場で食べ、残る58%を地面と樹上に分けて貯食し、翌春5月まで地上に残って発芽の機会を得たのは約7%ほどだったという。

この「忘れられた種子」がオニグルミの森林更新を担う仕組みでもあり、リスは無意識のうちに散布者の役割を果たしている。同じリス科でも樹上活動を続けるニホンリスと地中で冬眠するシマリスでは越冬戦略が異なり、貯食は戦略に合わせて磨かれた合理的な適応行動として進化してきたのだ。

仕組みの科学

リスの貯食行動は「散在貯蔵(scatter-hoarding)」と呼ばれる分散型の戦略で、大型齧歯類の中でも高度に洗練されている。森林総合研究所の観察研究によれば、ニホンリスは秋にオニグルミを持ち去った156個のうち約42%をその場ですぐ食べ、残る58%を地面(47個)と樹上(44個)に1個ずつ分けて貯食した。この分散は盗難リスクを最小化する重要な適応で、1か所にまとめて貯めるとアカネズミなど他種による発見と略奪が起こりやすくなる。実際、貯食された内訳では39%が後日リス自身に再発見され、12%は他種(アカネズミ)に盗まれ、残り約7%が翌春5月まで地上に残り発芽の機会を得た。

オニグルミが貯食対象として選ばれるのは、硬い殻が細菌腐敗を防ぎ、殻を割れる動物種が限られるため盗難率が相対的に低いためだ。ニホンリスは前歯とテコの原理を組み合わせ、順調なら5分、時間がかかっても20分ほどで殻を半分に割る技術を持つ。運搬距離は母樹から15m以内が多いが1〜168mと変異が大きく、実生調査では最大105m離れた地点で若木が確認されている。散在貯蔵は「記憶+嗅覚による再発見」と「一部の忘れ物」の絶妙なバランスの上に成立している行動戦略なのだ。

歴史と発見

リスの貯食行動が体系的に研究されたのは20世紀後半、行動生態学の発展とともにである。特に1970〜80年代、アメリカの生態学者が北米のリス類(ハイイロリス・アメリカアカリス)を対象に、貯食場所の記憶精度と森林更新の関係を定量化する研究を進めた。彼らは実験的に貯食を追跡し、リスの空間記憶が想定よりはるかに正確で、盗難回避と再発見効率のバランスで散在貯蔵が進化したことを示した。

日本ではニホンリスとオニグルミの相互関係の研究が特筆される。森林総合研究所は多摩森林科学園などをフィールドに長期観察を行い、1990年代の研究成果集で「ニホンリスの貯食行動によるオニグルミの更新」を報告した。オニグルミは動物散布に高度に依存する樹種で、風散布や重力散布では母樹から遠くへ運ばれず、リスが果たす散布者の役割が世代交代の鍵とされる。近年はGPS首輪や自動撮影カメラの導入で個体追跡が精密化し、貯食パターンと森林動態のリンクがさらに解明されつつある。多摩森林科学園ではニホンリスの姿を実際に観察できる林も維持されている。

もう一歩先

リスの貯食行動は「動物散布」という生態系サービスの好例で、樹木の遺伝的多様性と森林の再生能力を支える基盤の一つになっている。オニグルミの実は重く、鳥や風では母樹の周辺にしか散布されない。リスがランダムに埋め、その一部を忘れることで、初めて母樹から離れた地点に子孫が展開し、遺伝子交流と森林拡大が実現する。散在貯蔵は「予測不能な忘れ物」というノイズを含むからこそ、機能する散布装置になっているのだ。

一方、日本の在来生態系は外来種の脅威にも直面している。森林総合研究所は日本各地で外来リス(クリハラリス・タイワンリス)の駆除研究を進め、その成功要因を報告している。外来種は在来のニホンリスと餌資源を競合し、樹木の樹皮を剥がす被害も起こす。ニホンリス自体も、里山の減少・都市化で分布を狭めている地域があり、動物散布に依存する樹種の更新が滞る可能性が指摘される。リス1匹の秋の貯食は、実は森全体の未来と繋がっている——身近な観察から、日本の森林生態系の複雑な相互依存を体感できる。

🌱 ためしてみよう!3択クイズ

本文をよんでこたえてみよう。タップでせいかいがでるよ。

Q1. ニホンリスが秋に木の実をあちこちに隠すのはなぜ?
こたえ:冬に食べる「貯金」だから
森林総合研究所によれば、ニホンリスは冬眠せず樹上で活動を続けるため、冬に食べものが少なくなる時期に備えて、秋のうちにオニグルミなどを地面や木のあいだに分けて隠しています。この分散して隠す方法を散在貯蔵といい、他の動物に盗まれるリスクを減らす工夫です。
Q2. リスが隠した実は、そのあとどうなる?
こたえ:一部が芽を出して森を育てる
リスは隠した場所を全部は覚えていません。研究では、秋にリスがはこんだクルミのうち翌春5月まで地上に残ったのは約7%ほどとされます。この忘れられた種子が芽を出して大きな木に育ち、オニグルミの森が広がる仕組みになっています。
Q3. ニホンリスとちがって冬眠するリスの仲間はどれ?
こたえ:シマリス
森林総合研究所によれば、ニホンリスは冬眠せず樹上で活動を続ける動物で、同じリス科でも地面に穴を掘って冬眠するのはシマリスです。越冬戦略が違うため、貯食のしかたも異なります。モモンガはムササビの仲間で、リスとは近い分類群ですが別種です。

👤 大人のちょっとした雑学

リスの忘れっぽさが森を育てる

森林総合研究所の観察によれば、リスが秋に貯食したクルミのうち、翌春5月まで地面に残って発芽の機会を得るのはおよそ7%ほど。ほんの「わずかな忘れ物」がオニグルミの世代交代を担い、森を静かに広げていく。

ニホンリスは冬眠しない・シマリスは冬眠する

同じリス科でもニホンリスは冬眠せず一年中樹上で活動を続け、シマリスは地面の穴で冬眠する。貯食はその越冬戦略に合わせて進化した合理的な適応で、樹上派は木の実を分散し、地上派は寝床近くにためる傾向がある。

クルミ割りは5〜20分の職人技

森林総合研究所の報告では、ニホンリスは前歯とテコの原理を組み合わせ、順調なら5分、時間がかかっても20分ほどでオニグルミの硬い殻を半分に割る。若齢期に親や他個体から学ぶ「観察学習」で世代を超えて技術が伝わる。

🔬 とことん深掘り:読書ガイド

読み順ガイド(やさしい→専門)

  1. 森林と動物の生態学(森林生態系入門書)
    リスの貯食が森林更新に果たす役割を、生態系の物質循環と種子散布のなかで位置付けて理解できる。全体像から入るとリス個別種の話に深みが出る。
  2. リスと森のふしぎな関係(ニホンリスと種子散布)
    森林総合研究所の研究成果をもとにした日本語の一般書。散在貯蔵の観察データや実測結果を平易に追える。
  3. 動物の貯食行動(行動生態学専門書)
    散在貯蔵と一括貯蔵、記憶とランダム再発見、盗難率、代謝コストなど、貯食を進化生態学の観点から掘り下げる。
  4. 東アジアのリス類(分類・生態)
    ニホンリス・タイワンリス(外来種問題)・ホオジロシマリスなど東アジアのリス類を比較。日本の生態系保全上の課題も理解できる。

さらに進む方向

  • 森林総合研究所や東京大学農学生命科学の公開講座で、種子散布の最新研究を追う
  • 自宅近くの雑木林や都市公園で、リスの食痕(かじられたクルミ・松ぼっくり)を探す観察を試みる
  • 樹木医・自然観察指導員の研修で、森林更新のメカニズムを実地で学ぶ
  • タイワンリス(外来種)による日本在来生態系への影響を、地域の生物多様性センターや自治体資料で調べる

もっと詳しく:図解

  1. 秋 集める
    オニグルミなど木の実をあちこちで探して集める
  2. その場で食べる
    集めた実の約42%はその場で消費する
  3. 秋 分散して隠す
    残り約58%を地面と樹上に1個ずつ分けて貯食
  4. 冬 掘り出す
    食べ物の減る冬に、記憶と嗅覚で貯食場所を再発見
  5. 他種による盗難
    貯食の一部(約12%)はアカネズミなどが持ち去る
  6. 春 忘れた実が芽を出す
    残された約7%の種子が発芽して若木になる
  7. 森の更新
    育った木が翌年以降の親木となり森林が広がる

ことばのメモ

散在貯蔵
食べものをあちこちに分けて隠す方法
ニホンリス
日本の森にすむリス。冬眠しない
オニグルミ
日本の山にはえる殻がかたい実の木
種子散布
植物の種が動物などで運ばれること
森林更新
古い木がかわって森が続いていくこと

よくある質問

リスは冬眠しないのですか?
森林総合研究所によれば、ニホンリスは冬眠せず樹上で活動を続けます。地面に穴を掘って冬眠するのは同じリス科でもシマリスです。
隠した場所は全部覚えていますか?
全部は覚えていません。研究では貯食された分の一部が後日再発見されずに残り、翌春に発芽するチャンスをもつことが観察されています。
どれくらいの距離まで運びますか?
森林総合研究所の調査では母樹から15m以内が多い一方、最大約105m離れた場所まで運ばれ、実生が観察された例もあります。
オニグルミ以外も貯食しますか?
はい。ドングリ・松ぼっくり・木の実全般を扱いますが、殻が固く保存に向くオニグルミは代表的な貯食対象として研究されてきました。

学びのタネ

この問いに関連する本・実験・サービスのご紹介です。

家でできること

  • 秋の公園や神社の境内で、リスが木の実をくわえて走る姿や、かじられたクルミの殻を探してみよう。
  • 森林総合研究所の公式サイトで、ニホンリスとオニグルミの関係を写真付きで確認してみよう。

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出典・参考文献

  1. 森林総合研究所自然探訪2012年11月 ニホンリスとオニグルミ 参照 2026-07-25
  2. 森林総合研究所ニホンリスの貯食行動によるオニグルミの更新 参照 2026-07-25
  3. 森林総合研究所 多摩森林科学園ニホンリス 参照 2026-07-25

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